昭和58年(1983年)12月15日(木曜日)日経流通新聞

挑戦 未来ビジネス ソフト社会がくる

輩出するヤング創業者
柔軟な感性と行動力

田渕ほっかほっか亭総本部社長
西アスキー副社長
上田ファイブ・フォックス社長
山口恭一 トータルサービス社長

ニュービジネスは若い創業者によって支えられている。社会生活や技術が急速に変化、発展するなかで、いたるところにビジネスのチャンスが生まれているが、これをつかまえることができるのは若い柔軟な感性、発想力だからだ。
ここに4人の若い創業者たちがいる。ハイテクからニューサービスまで分野はさまざまだが新しいタイプの創業者の代表選手たちだ。

先端型として西和彦—27歳。パソコン(パーソナルコンピューター)ソフトの開発や関連雑誌を発行するアスキー(本社東京、年商60億円、創業時21歳)副社長
堅実型の山口恭一—27歳。ハウスクリーニングのTS日本(本社同、年商3億円、創業時24歳)社長。
アイデア型の田渕道行—33歳。持ち帰り弁当のFC(フランチャイズチェーン)、ほっかほっか亭総本部(本社同、加盟店全店の年商460億円、創業時24歳)社長。
感覚派の上田稔夫—39歳。黒を基調にした衣料品の製造、小売りのファイブ・フォックス(本社同、年商78億円、創業時31歳)社長。
どの会社もいま躍進し続けている。時の流れにうまく乗った——ある意味では運にめぐまれた、という要素もあろう。しかし、それぞれに起業の時を振り返りながら、その生き方の話を聞くと、若いながらも創業者、経営者として名を馳(は)さしめた共通の資質、それを発揮する努力を重ねてきていることがわかる。

心の引き出しに

若い創業者たちに共通するポイントとは——語録でつづってみた。

その1 好奇心と観察力

「自分でやってみたいなあと思ういろんなことを、大事に紙に包んで心の中の引き出しにしまっておく。こうした好奇心の準備があれば、チャンスが巡ってきた時いつでも動き出せる」(西氏)。
「うどん屋をやっていたころ、毎朝早く青果市場へ仕入れに行ったが、弁当をリンゴ箱状の発泡スチロールの箱に入れて冷めないようにして売っていた。あったかい弁当——ピーンときました」(田渕氏)。
「大きなビルでは以前から大手のビルメンテナンス会社がクリーニングを請け負っていて入り込む余地はない。しかし比較的小さな商店や飲食店、一般家庭を対象にすれば、汚れを落としたり消毒する仕事はいくらでもある、と思った」(山口恭一氏)。
「大手アパレルと勝負するにはどうしたらよいかを考えながら、いろいろ見て歩くうちに“店で勝負”との結論に達した。卸から小売り直営、FC方式などと。消費者は買い物をする時、店でしか判断しないのだから」(上田氏)。
好奇心や意欲を心中に秘めながら四方、八方に目配りしているそれぞれの心構えをうかがわせる。しかし彼らにとってはこうした好奇心、観察は次の動きへの準備作業。考えたこと、ピーンときたことを実行するには……。

飛び込みで歩く

その2 決断と行動力

「アスキーの仲間と夜中2時ごろ今後についてあれこれ雑談していた。米国にビル・ゲーツというソフトウエアにすごく強い若いのがいる、との話になって、すぐイエローページをめくって国際電話した。本人と話ができて直ちに私が会いに行くことにした。この会見が大成功だったんですよ」(西氏)。
「私1人とアルバイト2人で商店街などを、それこそ飛び込みで1軒1軒歩いた。引っ越しの際の清掃をと思って、不動産屋、トラック業者も訪ね回った」(山口恭一氏)
「根っから商売が好きだった私は、讃岐(香川県・白鳥町)から大学進学のため上京してから、いろいろやりました。スーパー店頭での実演販売、通信販売にも手を出した。指圧を習いマッサージもやったなどなど」(田渕氏)。
「婦人服の専門店に勤めていて仕入れの責任者だった。しかし、途中入社だったこともあって、このままいてもあまりお役に立てそうもないとの想いがあった。そこで自分で作ってみようと、仕事で知り合った仲間4人とファイブ・フォックス設立へ踏み切った」(上田氏)。
行動に移る前には迷いやためらいがそれなりにあったには違いないが、ひとたび方向を決めてしまえば、腰軽とでも言える行動力を発揮する。現在の事業に結び付く以前の試行錯誤を経てきたことの重みが伝わってくる。しかし、かつての立身物語にあり勝ちな悲壮感や、苦労話のイメージはない。

したたかさ持つ

その3 自分や自分の事業を謙虚に見詰める

「私は100メートルや400メートル競走では勝てないが、マラソンランナーとしてなら自信がある。だれにどう言われようとパソコンとともに走り続ける」(西氏)。
「今のTS日本の事業にはさほどの独創性はない。細心の注意を払ってクリーニングし、その結果をみてもらってまた注文してもらうしかない」(山口恭一氏)。
「私の発想法は既存の10にプラス1のアイデアを加えるやり方」(田渕氏)。
「うちのファッションの基調が黒になったのはデザイナーのセンスもあったが、会社が発足したばかりのころ資金力不足であれこれ手を広げられなかった。限られた素材の中で工夫した結果として今の流れにつながった」(上田氏)。
決っしてがむしゃらではない。現代の創業者にふさわしく、ある面ではちゃっかりと自分の足元を見詰めて、世の流れに合わせるしたたかさを見る。

日経メディアミックス

この企画は日経グループのメディアミックス(異種媒体による統一テーマの同時キャンペーン)として、テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知で毎週日曜日午後6時半から放送しています。日経ホーム出版社は「ショッピング」誌で59年1月号から関連企画を連載。同時に、「ルポルタージュ高度情報社会・後半」を、日本経済新聞は毎週日曜日付、日経産業新聞は毎週月、火、水曜日付に59年1月中旬から連載します。