日経産業新聞 1991年(平成3年)5月17日(金曜日)

新進VB 発想のヒント

建物の外壁掃除
トータル・サービス
山口 恭一社長

依頼あればどこでも競争避けて独自路線

どんな物でも、ほっておけば汚れてくる。かと言って、そうそう簡単に掃除できる場所ばかりではない。こんなジレンマを解決するのがトータル・サービス。「この世の中に、洗えない物は何もない」と山口恭一社長が言い切るように、依頼が舞い込めば、ほとんどの場所の掃除を引き受けると言う。

人がやらない事を

「とにかく、他の人がやらない事をやる」。この考えがビジネスに対する、山口恭一社長の信念である。
ますは、業務内容にこの考えが反映されている。同社が扱う場所は、「ビルメンテナンス会社が担当しない場所」に決められている。つまり、部屋や事務所内部ではなく、建物の外壁などを掃除しようと言う訳である。人がやらない事をやっていれば、それだけ、「ムダな競争を避けられる」というメリットが期待できるのだ。
それでも、外壁クリーニングを業務とする会社は後を追って出てくる。その時には、クリーニングの方法で勝負をする。
「最大のポイントは中性化にある」と山口恭一社長。簡単に言えば、「酸性とアルカリ性の洗剤を使って洗浄、中和して廃水する」のだ。つまり、「ある部分をきれいにして、その結果、別の部分の環境を悪くしていたのでは意味がない」と考えたからである。
外壁クリーニングと言えば通常、酸性の洗剤で洗浄した後、水洗いをして終わりだと言う。これでは頑固な汚れは完全に取り切れないうえ、排水は酸性のまま下水に流れてしまう。トータル・サービスの場合は「汚れに応じて洗剤を変える」。そして最後には壁面を中性にするため、酸性で洗った部分にはアルカリ性の洗剤をかけてから水洗いする。場合によっては、お湯を使うこともある。「このため、他では2工程程度で終わってしまう場所でも、4-7工程かけて仕上げる」ことになる。
この洗浄技術は米国のクリーニング業者、スパークル・ウォッシュ・インターナショナル社(オハイオ州)から導入した。89年末のことだ。しかし、この提携関係を築く時にも、「人がやらないことを……」という考えが生きている。

米社の技術に固執

「なんとしてでも、この技術が欲しかった。だが、トータル・サービスがスパークル社と提携しても、似たような技術を持つ別の会社があれば、他の日本企業に技術が流れる可能性がある」と山口恭一社長は考えた。「それならば、この可能性をつぶしておけばよい」。
山口恭一社長の結論は、「同様な技術を持つクリーニング業者がスパークル社だけならば問題ない。2社あった時は、両社と提携してしまえばよい。しかし3社以上だったら……。資金が間に合わない」。そして、「その場合は、潔くこの事業をあきらめよう」と心に決めて、米国に向かった経緯がある。

東京ドームも担当

こうした「右か左か」という大きな決断を経て、現在では日本市場で急ピッチで成長する事業に育っている。さらに今年初めには、誰も掃除をした経験がない東京・水道橋にあるドーム球場のトラス構造部分の掃除を無事に完了、着実に実績を積み上げつつある。
「初めて手がける事でなければリードを保てない」。山口恭一社長は言う。だが、問題はその先である。「後から出てきた企業が決して追い付けない様に、常にアイデアを絞っていなければならない」のだ。ここに、強さの秘けつがあると同時に苦労がある。
(蓮田 善郎記者)

外壁の汚れやコケをきれいにできる

▼会社概要
ハウスクリーニング業者として82年5月に設立。建物の外壁を中心とし、建設機械や航空機、歴史的建造物、墓石など大抵の物の洗浄を引き受ける。現在はフランチャイズ展開を進めており、これまでに全国に25店舗を開設した。資本金は3000万円。従業員数24人。91年2月期の売上高は5億6000万円、グループ全体では34億円。本社は東京都新宿区西新宿7ノ5ノ10。電話03・3363・1150。