日経ビジネス NIKKEI BUSINESS 1995-2-27

資格制導入し新事業の長を育てる

現在主力になっている外壁保全事業は、素材などによって80種類の薬剤を使い分けて汚れを落とす。洗浄後は26種類のコーティング剤を使って、汚れを付きにくくする。薬剤を使って洗浄するため、高い圧力で水洗いする従来の方法に比べて傷付きにくいだけでなく、外壁の形状に関係なく汚れが落ちるという。
大手不動産会社のビルメンテナンス部長は「ビル外壁などの清掃事業と言えば、1回限りの契約でアフターサービスが十分でないものが多く、結果的にコストが高くついていた。トータルサービスの商品は一見高く見えるが、長期の視点に立てば競争力がある」と評価する。東京ドームなど複雑な形状の建築物の実績も積んでおり、外壁の清掃・保全技術では日本でトップクラスの地位を確立している。
山口恭一社長はベンチャー経営者の間では有名な存在。大学受験に2度失敗し、進学をあきらめて起業家の道を選んだ。レジャー会員権の販売会社を経て24歳で独立。ビジネス書を読みあさり、独学でハウスクリーニング事業を切り開いた。今や、起業に関する講演会などでは、常連の講師の1人に数えられているほどだ。
「数年前までは、毎日一生懸命やっていれば成功すると思っていた」と山口恭一社長。しかし今は「事業のコンセプトを持つことの方が重要。自分たちの事業が顧客にとってどんな意味があるのかを真剣に考え、顧客満足度が高まるように工夫している」。発想の転換で、ユーザーに対するマーケティングも変わった。以前なら、「ビルの外観をきれいに保ちましょう」と、感性に訴えていたが、今は「外装材を保全することで、長期使用できます」と、経済合理性を刺激する。

同社の攻勢は、メタルメンテナンス事業にとどまらない。山口恭一社長は2月8日に取引先などを集めて新宿のホテルで開いた「感謝の集い」で、「来期中に2件の新規事業に着手する」と宣言した。内装や外壁のクリーニング、保全という基本線を守りながら、事業領域を徐々に拡大していく方針だ。
新規事業の開拓や既存事業の強化で、トータルサービスは2000年までに売上高30億円、営業利益6億円を目指す方針。社員数も現在の2倍近い100人前後まで増やす。一方、2004年をメドに株式を公開する計画もある。
今後、株式の公開計画を達成するうえで、人材育成が重要になる。山口恭一社長は「こんなちっぽけな会社には、大卒のバリバリの社員は集まらない。転職3回、4回といった人しか来なかった」と打ち明ける。こうした中で同社は、人事制度や教育体制を見直し、今後、新しい事業を指揮できる人材を育てる方針だ。
試行錯誤の中で、同社が取り入れようとしている人事制度はユニークだ。年功序列では活力が出にくいし、と言って、完全な実力主義は社内にあつれきを生む。そこで資格制を導入し、年功によって昇給する部分を大幅に圧縮する。また事業部門ごとに事実上分社化し、それぞれの事業運営を任された部門経営者になれば給与水準を自分で決められるようにする。自分が育てた部下や事業からロイヤルティーを受け取る仕組みも取り入れる方針で、部下の育成に対しても意欲を持たせる。
ただ、同社の将来性については、金融機関など取引先もまだ、明確な評価を下せないでいる。トータルサービスのように外壁保全事業を総合的に手掛ける会社は、日本にはほとんどない。それだけに、市場がどこまで広がるのか、同社の収益力がどこまで高まるかも見当がつきにくい。
ある大手都市銀行の融資担当者は「人の嫌がる3K(きつい、汚い、危険)事業の代表。廃れることはないと思うが、成長性となると見極めがつきにくい」と打ち明ける。「店頭公開し、事業継承できて初めて、軌道に乗ったと言える」と語る山口恭一社長にとって、株式公開を決めるまでの後4年が正念場になりそうだ。
(深尾 典男)

米国の技術導入に1990年代に急成長
トータルサービスの業績推移

売上高
10億円
5
0
経常利益
2000万円
1000
0

経常利益
売上高
1989年2月期
90
91
92
93
94
95(見込み)

トータルサービスの概要
本社 東京都新宿区西新宿7-22-12
設立 1982年5月
資本金 3000万円
社長 山口恭一(39歳)
売上高 9億9770万円(94年2月期)
従業員 55人
事業内容 ハウスクリーニング、外壁保全

NIKKEI BUSINESS
1995年2月27日号